ゆめのゆめ


まどろみの中、いつの間にか失っていた意識を取り戻そうと
音も立てずにゆっくりと瞼を開く。


ぼやけた景色がやがて輪郭を現し始めると
凱は今、自分が置かれている状況を一つ一つ順番に把握していこうとした。


暗い部屋。
窓の外、漆黒の中に映える碧い光――碧い惑星の輝き。

そうだ、此処は宇宙で。
今、自分が居るのはオービットベースの一室…
腕の中には…
ほら、やっぱり。命が居る。


戒厳令が布かれない束の間の休息時間。
検査の合間を縫って命に会いに来た。
その間にどうやら転た寝してしまったらしい。



腕の中の少女は、凱の厚い胸(正確にはアーマーなのだが)に顔を寄せ
すやすやと心地好さそうに寝息を立てている。
年齢的には、大人の女性と言うべきなのだろうが
こうして罪の無い寝顔を浮かべている姿はまるで少女そのものである。

凱はそんな彼女を眺めてくすりと笑う。
と、同時にふと不安も過ぎる。


(いくら気持ち良さそうに寝ていても…
 俺の鋼の身体にもたれて寝ていたら
 命の身体が冷えちまう…)


そう思い、命をきちんとベッドに寝かせる為に
命の身体を自分の身体から引き離そうとすると



「…んぅ…」
命はそんな声を漏らし、切なそうな顔をした。


「こぉら、命…」
再度挑戦しても同じ結果。


凱は仕方無く負けを認めた。



自分の腕の中で、愛しい女性が無防備な姿で眠りこけている。
疲れているのか、安心しているのか、はたまた両方か。
こんな時、彼女の温もりを直に伝えない、感触を得ない、
サイボーグ・ボディーでなければ、どうなっていたか定かではない。
思わず、この鋼の身体に有難みを感じてしまうところである。





いや、それは嘘だ。



本当は彼女の温もりを感じたい。柔らかな肌に触れたい。
この腕で思い切り抱き締めたい。

それは叶う筈の無い事だけれど。




ベッドに寝かす事を諦めた凱は、命を起こさぬよう
手の届く範囲に有った毛布を命の身体の上に優しく掛けた。

命の上に掛けた毛布は、ついでに自分の身体をも覆う形になる。



凱は不思議な感覚に包まれた。


温度を感じない筈の鋼の身体が、
毛布が保温する命の体温を感じているような
そんな有る筈の無い感覚。


この冷たい身体の上でも、居心地が好いと眠る命の温もり。



(――夢を…みているのか?)



凱はその温もりを惜しむように意識に深く刻み付けつつ、
再び眠りの淵に落ちた。





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このSSは2006年8月に制作みたいです。
背景としては、木星決戦の直前くらいのイメージですかね…。





モドル