simple cake


8月のとある暑い日。
揃って休暇を取ることに成功した二人は、肩を並べて台所に立っていた。

クリームを泡立てている命と、ストロベリージャムの瓶を開けようとしている凱と
二人の間には焼き上がったばかりで甘い香りを放つスポンジケーキ。


今日は凱の誕生日であった。


一緒に迎える誕生日の回数を数えてみたり、
一緒に誕生日を迎えることの出来る幸せを噛み締めたり、
そんなことをしながら作業を続けているうちに、ケーキは着々と完成へと近付いていく。



凱は久々に開けるが故になかなか開かないジャムの瓶の蓋を、力を込めて開けた。
スポンジケーキに塗る量を適当にスプーンで小皿に取り分ける。
ふと自身の手に目を遣ると、いつの間に付いたのか、
凱の指にはジャムに触れてしまった形跡が残っていた。

凱はそれをペロリと舐める。
と、その時、凱は或る事を思いついた。


凱はその指に、先よりも少し多めのジャムをわざと付けると
隣りで真剣にクリームを泡立てている命に声を掛ける。


「命」

「うん?」


命は手を休め、自分を呼ぶ声の主の方を見た。


「ジャムが付いちまったんだ。舐めてくれるか?」

そう言いながら、凱は命の顔の前に指をそっと差し出す。


「えっ… うん、良いけど…」

命は何とも素直に要求に応じた。


差し出された指に更に顔を近付け、赤い舌をチラリと覗かせながらペロッと一舐めする。
それだけでは取り切れなかったので、命は凱の指を浅く咥えてチロチロと舐め始めた。

ジャムのベタ付きが残らないように、丁寧に少しずつ、指と爪の間まで舐めていく。
自分の指よりは少し太い、しかし形の良く長い指に時折吸い付き、向きを変えては舌を這わす。

耳には、たまに漏れ聞こえる水音が僅かに響いた。


(…何か…これって…)


そんな考えが一瞬過ぎった時、命はそれを必死で振り払った。




「はぁっ…」

綺麗になったであろう指を口から解放した時、命は無意識に熱っぽい息を小さく吐いていた。


「命、やらしい」


ぽそっと呟いた凱の一言に、命は心臓が飛び出るほど驚く。


「なっ、何で!?」

自身の脳裏に一瞬でも存在した考えはとても口で言えるものではない。
勿論気持ちが読まれている筈なんて無いのに、
それでも何処か見透かされているような気がして、命は動揺した。


「俺の指舐めてる時、命、やらしいこと考えてたろ」

「そっ、そんな…」


だんだんと赤みを増す命の顔に凱の顔が急に近付いてきた。
間近で見た意地悪な瞳は、命の反応を楽しんでいるようだった。


「そういう顔してた」

「…凱のバカ」


命が視線を外すと、凱は命がさっきまで舐めていた部分をペロリと舐めた。
その姿が目の端に映ると、命はいたたまれなくなって、
中断していた自身の作業を再開しようとクリームの入ったボールに向き直る。


そんな彼女を見ると凱は背後から抱き付き、彼女の動きを封じた。


「命…」

耳元で甘えるように囁くと、
凱は屈んで彼女の耳に軽いキスを落とし、そのまま甘噛みする。


「あっ…」


命は強張っては居るものの、あと一押しで崩れ落ちそうな様子で甘い吐息を漏らした。


「…だめ…よ。今は…ケーキ作ってる最中なんだから」

「ケーキよりも命が良いな」


凱のそんな言葉を耳にすると、命は小さくむくれた。


「もう… 一生懸命作ってるのに…」

「じゃあケーキを戴いてから命を戴くとするよ。それで良いだろ?」


命は何も答えられずにますます真っ赤になった顔を背け、
自身を拘束していた凱の腕を解く。


意外にも、彼は素直に命を解放した。
でも、それは狩人が獲物を手の内で自由にさせているだけのようなものであることを、命はわかっていた。



不安と期待を胸に抱きつつ、命は再び無言でクリームを泡立て始めた。






----------

…と、まぁこんな感じです。此処まで読んで下さった方、ありがとうございます…
これ、思い付いて3日くらいで書きました。良いのか悪いのか、快速でした(笑)

ちなみに、二人が作っているケーキはスポンジケーキの間にジャムを塗って
全体をクリームで覆って、上に飾りか何かを付けるような
本当にシンプルなケーキということにしてみました。

この後にクリームこぼしててんやわんや…というのも実はちょっと考えたのですが、
まぁ…後は皆さんのご想像にお任せします(笑)どうせ命ちゃんは美味しく戴かれるんだし!






モドル